〜相場の“期待”を読み、勝率を上げるための実践知〜
0. この記事のゴール
- IV=インプライドボラティリティの意味・測り方・活用法を理解する。
 - コール/プットの「買い」「スプレッド」「ヘッジ」で、どのIV環境が有利かを判断できる。
 
結論:IVは“相場の不安・期待の温度計”。数値の高低よりも、平常値とのズレ(±1σ)と推移を読むのがコツです。
1. インプライドボラティリティとは?
オプション価格(プレミアム)に内包(インプライド)された、将来の価格変動率のこと。
- 過去の実績変動=ヒストリカルボラティリティ(HV)
 - これからの予想変動=インプライドボラティリティ(IV)
 
IVはブラックショールズ式などのモデルを逆算して求めます。プレミアムが高ければIVは高く、低ければIVは低く表示されます。
例:同じ権利行使価格/残存日数でも、イベント前でプレミアムが上がればIV上昇=市場は「動きが大きくなる」と見ている。
2. IVを「3枚の地図」で読む
2.1 レベル(Level)
- 単純に今のIVが高いか低いか。
 - 指標例:IV Rank(IVR)とIV Percentile(IVP)
- IVR=(現在IV−過去一定期間の最小IV)÷(最大IV−最小IV)×100
 - IVP=過去一定期間で現在IVを下回る日が何%か
 
 
2.2 期間構造(Term Structure)
- 満期ごとのIV曲線。通常は期近 ≧ 期先。
 - イベント直前は期近IVだけが山型に突出(例:SQ週、決算前)。
 
2.3 スマイル(Skew)
- 権利行使価格ごとのIVの歪み。一般に株式指数はプット高(右肩上がり)=下落保険需要が強い。
 - 急落後はOTMプットのIVが急騰し、プットのスマイルカーブが深くなる。
 
3. どの戦略が有利か?(早見表)
| IV環境 | 向く戦略 | 理由・狙い | 
|---|---|---|
| 低IV・上昇想定 | コール買い / コールデビットスプレッド | プレミアムが安い。上昇+IV戻りで利益が乗りやすい | 
| 低IV・下落想定 | プット買い / プットデビットスプレッド | 同上。急落時はIV上昇の追い風 | 
| 高IV・レンジ想定 | クレジットスプレッド(コール/プット売り) | プレミアム高取り+IV低下で利益 | 
| イベント前(期近だけ高IV) | カレンダースプレッド | 期近売り×期先買いで期近IV低下を狙う | 
| 急落直後(プット高IV) | プットスプレッドの買い→利確早め | 反発時のIVクラッシュで逃げ遅れ注意 | 
重要:“買い”は低IVで、 “売り”は高IVが原則。ただし売りは無限のリスクを伴うため、スプレッドで限定する方が良い。
4. 実例で理解:IVの動きとプレミアム
- 前提:日経平均 39,000円、ATMプットの残存日数14日。
 - ケースA:IV 15% → 25%に上昇(相場に不安感)
- プットプレミアム:120円 → 210円(概算)
 - 価格が同じでもIV上昇だけで利益が乗る(ベガ+)。
 
 - ケースB:IV 25% → 15%に低下(相場に安心感)
- プットプレミアム:210円 → 120円(概算)
 - 価格が同じならプレミアムが萎む(IVクラッシュ)。
 
 
体感のコツ:毎日、ATMオプションの「IV・Δ・Θ・プレミアム」をメモ。ニュースとIVの反応を対応づける。
5. IVとThetaの“二重苦/二重取り”
- 買いの二重苦:IV低下+Theta減少 → プレミアムがダブルで減る。
 - 売りの二重取り:IV低下+Theta減少 → プレミアムがダブルで減る=利益。
 
買いで戦うなら、
- 低IVで買う、2) 保有は短期、3) 利益が出たら早めに半分利確。
売りで戦うなら、 - スプレッドでリスク管理、2) イベント跨ぎは避ける、3) 保険として逆指値やヘッジを用意。
 
6. イベントとIV:典型パターン
- SQ週・大きな経済指標:期近IVが先に上がり、発表後に急低下しやすい。
 - 決算・要人発言:日経225採用の主力株でサプライズがあると指数IVも連動。
 - 地政学・為替急変:プット側のスマイルカーブが強まり、全体IVも高止まり。小反発でIVだけ先に下がることが多い。
 
使い方:イベント前はカレンダー(不安感で高まっている期近売り×期先買い)やデビットスプレッドで「IV低下」を味方に。
7. 実務の測り方:IV Rank / Percentile を使う
7.1 目安のしきい値
- IVR 0〜20:低IVゾーン(買い有利)
 - IVR 20〜50:中立(方向で判断)
 - IVR 50〜100:高IVゾーン(売り or スプレッド有利)
 
7.2 3ステップ運用
- 過去90日または1年のIVデータでIVR/IVPを見る。
 - 戦略を買い/売り/スプレッド/カレンダーから選択。
 - Greeks(Δ・Θ・Vega)のバランスを確認してエントリー。
 
8. よくある勘違いと回避法
| 勘違い | 実際 | 回避法 | 
| 「IVが高い=必ず下がる」 | 高止まりが続く局面も多い | トレンド+IVの両方を見る | 
| 「IVが低い=安全」 | 急変で一気に上がることも | 枚数を小さく、イベントカレンダー確認 | 
| 「売りの方が勝ちやすい」 | 無限損失・ギャップリスクあり | クレジットスプレッドで上限設定 | 
| 「HVとIVは同じ」 | HVは過去、IVは未来期待 | (IV−HV)の差に注目 | 
まとめ:IVは“背景”を教えてくれる
価格だけでは見えない市場の心理を可視化してくれるのがIV。
- 低IV×方向性あり→デビット系(買い・スプレッド)。
 - 高IV×方向感薄い→クレジット系(限定売り)。
 - イベント跨ぎ→期近高IVを利用したカレンダー。
 
明日からは、プレミアムの上下だけでなく「IV・Term・Skew」の3点セットを必ずチェック。 それだけでエントリー精度と撤退判断が一段上がります。
  
  
  
  

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