オプション価格は「本質的価値(Intrinsic Value)」と「時間的価値(Time Value)」に分解できます。
この二つの足し算が今のプレミアム(価格)であり、値動き(原資産)と時間の経過、ボラティリティ(IV)の三要素で増減します。この記事では、初心者でもつまずかないように、定義 → 具体例 → 簡易式 → 実務への落とし込みの順番で整理します。
先に結論
- オプションの値段[プレミアム]=本質的価値+時間的価値。
- 本質的価値は満期でも消えない部分(インザマネーの銘柄は本質的価値が大きい)。
- 時間的価値は“将来の不確実性への値段”。時間経過とともに0へ近づく(セータ)。
- IVが上がると時間的価値が膨らむ。IVが下がると縮む。
- 買いは時間と戦う、売りは時間を味方にする。だから“買いは安く、売りは高く”が原則。
1. 定義:本質的価値と時間的価値
| 区分 | 定義 | コール(買う権利) | プット(売る権利) |
|---|---|---|---|
| 本質的価値 | 「今すぐ行使したら得する金額」 | S よりもKが低いと発生 | KがSより低いと発生 |
| 時間的価値 | 将来の可能性に対する上乗せ分 | プレミアム=本質的価値+満期に近づくほど0へ収束する時間的価値 | |
注:S=原資産価格、K=権利行使価格(ストライク)。
2. ITM/ATM/OTMと価値の関係
- ITM(イン・ザ・マネー):すでに有利な銘柄 → 本質的価値 > 0、時間的価値も上乗せ。
- ATM(アット・ザ・マネー):原資産と同水準の価格帯 → 本質的価値 ≒ 0、時間的価値が最大になりやすい。
- OTM(アウト・オブ・ザ・マネー):まだ不利な銘柄 → 本質的価値 = 0、価格は時間的価値のみ。
3. 具体例
原資産(日経225等と仮定)S=30,000。以下はいずれも同じ満期のオプション。
① コールK=29,500、プレミアム=800(ITM)
本質的価値=max(30,000−29,500, 0)=500。時間的価値=800−500=300。
② コールK=30,000、プレミアム=600(ATM)
本質的価値=max(30,000−30,000, 0)=0(ATM)。時間的価値=600−0=600。
③ プットK=30,500、プレミアム=400(OTM)
本質的価値=アウト・オブ・ザ・マネーなので0。時間的価値=400−0=400。
4. 時間的価値が決まる3つの要素:時間・IV・位置(moneyness)
- 残存時間(T):長いほど将来の可能性が広がる→時間的価値は高い。
満期が近づくほどゼロへ収束(セータ&ガンマの影響が強くなる)。 - IV(インプライド・ボラティリティ):将来の値動きの予想ブレ幅。IV上昇で時間的価値も上昇。イベント前は高く、材料を通過することで下がることが多い。
- moneyness(SとKの位置):ATM付近が時間的価値最大。遠いOTMは安価だが時間的価値しかないのでオプションを買っても結局は時間的価値の減少で0に収束することが多い。
5. セータ(時間低下)とベガ(IV感応)の要約
| ギリシャ | 意味 | 買いにとって | 売りにとって |
|---|---|---|---|
| セータ | 時間経過でどれだけ価値が減るか | マイナス(不利) | プラス(有利) |
| ベガ | IVが1%動いたときの価格変化 | IV上昇でプラス | IV上昇でマイナス |
買いは「時間の減価」と戦うため、IVが低くやや長めの満期が相性が良い。売りは逆。
6. Put-Call Parity(パリティ)で理解する“本質”
同一満期・同一権利行使価格なら、プットの価格=コールの価格-(原資産の現在価格-権利行使価格)。
この関係があるから、本質的価値の差は大まかに整合し、時間的価値の差は主にIVや金利・配当で説明できます。
実際には完全に一致はしませんが、価格の歪みのチェック指標として有効です。
7. 「時間的価値」はどう減っていくのか
- 直線ではなく曲線で減る:満期が近づくほどセータが大きくなっていく(特にATM)。
- 同じ満期でもATMが最もセータが大きい。ディープITMやディープOTMは相対的に小さい。
- イベント前のIV上昇で一瞬ふくらことがあり、通過後にはしぼむことがある(IVクラッシュ)。
8. 実務:買い/売りで使い分ける「価値の見方」
買い手の原則
- 狙いは本質的価値を増やす(=原資産が有利に動く)か、時間的価値を膨らませる(=IV上昇)。
- IVが低いときに仕込む、満期は20日〜90日のやや長めでセータを緩和。
- 単体で負けやすいならデビット・スプレッドにして、時間的価値減少を軽くする。
売り手の原則
- 狙いは時間的価値の減少を収益化すること(セータを味方に)。
- IVが高いときに仕掛け、時間以外の要素を受けにくいタイミングを選択する。
- 裸売りは潜在損失大。クレジット・スプレッドで上限損失を固定することが重要。
9. よくある誤解と回避策
| 誤解 | 実際 | 回避策 |
|---|---|---|
| 「ITMは安全、OTMは危険だけ」 | ITMは本質的価値が多いが、その分価格も高い。費用対効果はケース次第。 | 目的ごとにデルタで選ぶ(例:OTMだったらデルタ0.30〜0.40、ITMだったら0.55〜0.65で違いを作る)。 |
| 「時間的価値は毎日同じだけ減る」 | 減り方は非線形。満期が近いほど速く減少(特にATM)。 | 短期勝負はガンマ/セータが極端。20日〜60日中心で組む。 |
| 「IVは気にしなくて良い」 | IVは時間的価値の要因。買いはIV上昇で救われ、低下で苦しむ。 | 仕掛け前に平常IVレンジとイベント日程を確認。 |
10. 相場ごとの投資戦略(例)
| 相場/IV環境 | 価値の狙い所 | 戦略候補 |
|---|---|---|
| トレンド&IV低〜平常 | 本質的価値の上昇+時間的価値をほどほどに | デビット・バーティカル(ATM買い+OTM売り) |
| レンジ&IV高(イベント前) | 時間的価値の低下(セータ収益化) | クレジット・スプレッド/カレンダー |
| イベント通過直後(IV低下) | 時間的価値の膨らみ期待は小 | 買いは控えめに/方向はスプレッドで限定損失を活用して狙う |
11. ケーススタディ:どちらが“割高”?
条件:S=30,000、同満期、IV平常。
A. ATMコール(K=30,000)プレミアム=600(本質0/時間600)
B. ITMコール(K=29,500)プレミアム=800(本質500/時間300)
考え方:IVが同じなら、時間的価値が大きい方が“割高”。ただし、デルタや狙う値幅が違うため、単純比較は禁物。目的(短期か中期か、どの価格帯を獲りたいか)に合わせて選びましょう。
12. 今日から使えるチェックリスト
- □ プレミアム=本質的価値+時間的価値
- □ 目的は「本質的価値の上昇」か「時間的価値の低下」のどちらを狙う?
- □ IVは平常?高水準?低水準?(イベント前後を確認)
- □ 満期は20日〜90日を基準、短期ガンマに依存しないことを心掛ける
- □ 単体で不利ならスプレッド(デビット/クレジット)
- □ 1回の損失を口座の0.5%〜1.0%に抑えるようポジション設計を行う
まとめ:本質をつかめば、設計が上手くなる
オプション価格の心臓部は本質的価値(いまの有利さ)と時間的価値(将来の不確実性の値段)。
買いは「時間的価値の減少」という向かい風、売りは「IV低下」という逆風を常に意識します。
仕掛けの前に値動き・時間・IVの3要素を整理して「どの価値を狙うのか」を決める——それだけで、戦略の選択ミスが減ります。
最終更新日:2025年11月26日